幸せを探して
心配になり、声をかけようかと思ったその時。
「じゃあ、解答取りに行ってくるからちょっと待ってて」
と、中山先生が小走りで教室を出て行ってしまった。
静かだった教室は、先生が居なくなった途端にざわめきを取り戻す。
普通なら、陸人がその中心になって会話を盛り上げるはずなのに。
当の陸人は、机にうつ伏せになっている。
私は中腰になり、陸人の席の近くまで近づいて行った。
「陸人、大丈夫?」
そう声を掛けると、陸人はゆっくり起き上がった。
「…うん、大丈夫」
そう言いながら、陸人の呼吸は乱れている。
「陸人、保健室行けば?」
私は陸人の返事を無視し、再び呼びかけた。
(具合が悪いのかな?)
「……ううん」
陸人は首を振り、強く目を瞑った。
「あー、やばい…」
「何が…?」
陸人の小さな呻き声を、私は聞き逃さなかった。
「…記憶がっ…」
その一言で、私は全てを理解した。
陸人の驚異的な記憶能力は、時に副作用を引き起こすことがある。
それが、この症状だ。
何の前触れもなく、急に訪れる記憶の波。
覚えている限りの記憶が、それこそ岩に打ち付けられる波の様に陸人に襲いかかる。