幸せを探して
私達には到底理解が出来ない事。


その記憶の波が襲い掛かると、陸人は授業にも集中出来なくなる。


それこそ、今の様に。



「あー…辛っ…」


陸人はこめかみを揉みながらそう吐き出す。


「陸人、私陸人の隣に座ってもいい?陸人のテストの丸つけしてあげるよ」


陸人はうっすらと目を開け、


「ありが、とう…」


と口もとに笑みを浮かべた。


私は誰にも気付かれない様に数学の荷物を前の席に置き、陸人のテストの丸つけをし始めた。



しばらくして先生が戻り、丸つけが再開された。


私は陸人の答案と自分の答案をを丸つけしながら、横目でちらちらと陸人の様子を伺っていた。


今では、頬杖を付いた両手に顔を埋めている陸人。


先程より少し症状は収まったようだ。


全ての丸つけが終わり、私は陸人の机にそっと答案を置いた。


陸人は予想通り、100点だった。


「陸人のテスト、100点だったよ」


そう呼び掛けると、陸人は返事の代わりに


「はぁ…またか…」


と大きくため息をついた。


自慢にしか聞こえないけれど、何でも分かってしまうのはつまらないことなのかもしれない。



私は微笑しながら、皆の答案を集めた。
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