別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
夕食の時間になり、懐石料理が運ばれてきた。

お刺身に旬野菜の天ぷら、茶碗蒸しにお吸い物。

小皿のプレートは4つに分かれていて、少しずつ料理が入れられている。

たくさんのお料理に添えられた緑の葉や、食用菊が料理の彩りを豊かにする。

専務になったら、秋はこういうものをしょっちゅう食べることになるんだろうか。

こんな小さなことに、また感情的な気持ちになる。


おいしいけどやっぱりあまり食は進まなくて、結局半分も食べられなかった。

これでもずいぶん頑張ったほうだ。

「もう食べないの?」

「うん、お腹いっぱい」

「…そっか。最近加奈、小食になっちゃったな。
おいしいのに残念だな」

秋は小さく微笑んだけど、その表情はなんとなくぎこちない。

せっかくの旅行なんだから余計なことは言わずに楽しもうと、秋なりに気を遣ってくれているのかもしれない。

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