別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
「たまたまだよ。普段は食べてるよ」

「ホントか?」

「うん、それよりこれ」

秋に手渡したのは、チェックのラッピングがされて青いリボンが斜めに巻かれた手のひらサイズの四角い箱だ。

「なにこれ」

受け取ったそれを見ながら、秋が首を捻る。

さっき自分で話題にしたくせに本気でわかっていないあたりが、最近の忙しさを物語っている気がした。

「誕プレ。あんまりとっておくと腐っちゃうかも」

「えっ。ああ、ありがとう」

あまりに嬉しそうに笑うから、小針が刺さったように胸がチクンと痛んだ。

腕時計のお礼がこんな安っぽいものだなんて申し訳ない。

丁寧にラッピングを開けた秋は、箱のふたを開けて目を見開き、不思議そうな顔をした。

「なんでチョコ?
いや、嬉しいんだけどさ。
バレンタインみたい」

「バレンタインも兼ねてたりしてね」

「そうなの?でもおいしそうだ。
夕食終わったら一緒に食べよう」

「ううん。これは仕事で疲れた日に、ちょっとずつ食べて。
疲れたら糖分が必要でしょ?」

「ああ、わかった」

秋はプレゼントがこれだった意図がわかったようにすっきりした顔で笑った。

バレンタインと兼ねているというのは間違っていない。

その頃にはもう会えないから、今のうちに想いを込めて。

私の想いなんてもういらないのにね。

きっと婚約者が素敵なバレンタインプレゼントを用意してくれるだろう。

目をぎゅっと閉じて、浮かびそうになった涙を引っ込めた。


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