別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
「なんでいきなりここ?」

「なんとなく思い付きで。
たまにはこんなデートもいいでしょ?
あとで秋が住んでたアパートも見に行こうね」

「あのボロアパート?」

ちょっとめんどくさそうな秋を無視して、掲示板へ目を遣る。

「あっ補講がある。出ようよ」

「何の講義?」

「国際マーケティング論」

えー、と秋が不満げな声をあげる。

私だってそんな講義に興味はない。

でも、社会人になってしまうと講義に出るという機会自体がないのだ。

なんでもいいからもう一度あの感覚を味わってみたい。

「あ、101だから広いし、初瀬教授だから大丈夫。
紛れ込めるし途中で抜けられる」

「あーだからけっこう学生いるのか。
多分必修だもんな」

懐かしい講義室におずおずと入り、すぐに脱げ出せるように隅っこの席に座った。

「一緒に講義に出たことあったね」

「ああ、俺が紛れ込んでな。懐かしいな」

さっきまで嫌そうだった秋が、嬉しそうに微笑む。

付き合い始めた頃、秋はもう4年生で授業はほとんどなかったし、その後は大学院だったから同じ棟で会えることは全くなかった。

だから何度か紛れ込んで一緒に講義を受けたことがあったのだ。

バレるわけがないのに、悪いことをしている気分でドキドキしていた気がする。


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