別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
「マスター、俺ハイボール」

「かしこまりました」

やり取りを聞いていたマスターは笑い混じりに答える。

「で、なんか用事?」

「ううん、何にも」

「じゃあなんで来るんだよ。
デートの邪魔しに来る弟なんて聞いたことないぞ」

「いいじゃん。
加奈ちゃんに会いたかったんだよ。
会社じゃなかなか会えないしさ」

私の髪を指に絡ませて口づけするポーズを取った晴くんを、秋はグラスを持つ手を止めて睨みつけた。

「ハハッ。冗談だって。
本気にすんなよ」

晴くんは両手をあげるけど、秋の怒りはおさまらないらしく、低いトーンの声を出す。

「…お前ふざけんなよ?
冗談でも、今度加奈に触ったら許さないからな」

「こわっ」

秋は少し本気で怒っているけど、晴くんはけろっとして笑っている。

それを見ながら、私は秋の言葉に思いがけず甘い気持ちでいっぱいになる。

5年も付き合っていても、こんなことを言われたら嬉しくなるのは当然だ。

むしろ付き合いが長くなるほどそういう言葉は聞けなくなってしまうものだから、ある意味晴くんに感謝。


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