別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
木曜日、10時半。

時間よりも少し早く、ロビーで彼女が来るのを待った。

見ればもっと現実を思い知らされる。

私はもうそばにいちゃいけないんだということを否応にも実感させられる。

もう少しだけ…なんて甘えている自分に喝を入れるいい機会だと思った。

社員が堂々とロビーでサボっているとなれば問題だけど、ほんの数分だ。

見逃してもらおう。

時間が近づけば近づくほど、全身に鼓動が響く。

それを落ち着かせるように、何度も深く息を吐いた。

正面入り口の前に、黒い車が止まったのが見えた。

社長らしき中年の男性が自動ドアを入ってきて、その後ろから長い髪をハーフアップにした女性がついてくる。

多分、私と同じくらいの歳だろう。

ピンクベージュのワンピースに白いカーディガンを羽織り、ブランド物の小さなバッグを持っている。

ほんの数秒見て、すぐ通り過ぎてしまった彼女は、女の私でも見惚れてしまうくらい美人だった。

政略結婚なんだから顔なんてあまり関係ないんだと思っていたのに、完璧なルックスのご令嬢だ。

胃も心臓もギューッと痛くなって、背中を丸めて胃をさすりながらエレベーターを上がった。


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