別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
晴くんの言った通り、代理人がすぐに動き出してくれて、引っ越し関連の手続きはスムーズに進んだ。

来週末にアパートを引き払って引っ越し、月曜から会社を欠勤、そのまま病気退職という流れになる。

会社からは退職金が出るし、引っ越し費用と、次の仕事が決まるまでの資金援助は社長がしてくれると晴くんが言っていた。

スマホの番号ももちろん変える。

周りに口止めしておけば秋に伝わることはない。

私と秋のつながりは、完全に断たれる。


『ごめんね加奈ぁ』

電話の向こうで恵理の潤んだ声が聞こえる。

「謝らないでよお」

『でもっ加奈がすごくつらい時に私…っ勝手にひとりで浮かれて…』

しゃくりあげてさらに涙声になる恵理。

泣かせるつもりなんてなかったのに。

恵理が謝る必要もないのに。

「大丈夫。私もそのうちいい相手見つけるから、恵理は先に幸せになって」

なるべく明るい声でそう言うと、恵理はずずっと鼻をすすった。

『…うんっ…』

いい相手なんか見つかるのかな。

見つかるわけないよな。

切なすぎて思わず苦笑いがこぼれる。

「…それで、電話番号変わっても…」

『うん、秋くんにも、秋くんと繋がってる男の子たちにもヒミツにしておけばいいんだよね?
菜乃にもそういう話になってるんでしょ?』

「うん。お願い」

この春に菜乃と結婚した瑞樹くんは、秋の親友だ。

瑞樹くんの口から秋に伝わってしまったら困るから、菜乃には「瑞樹くんにも絶対内緒にしてね」とお願いしてある。

『なんかできることがあったらするからっいつでも頼って!』

「ありがとう、恵理」

私は幸せだと思う。

心配してくれる人がたくさんいる。

こんなふうに泣いてくれる人がいる。

だから…秋がいなくても、大丈夫。


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