別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
「お前がどう足掻いたって状況は変わらない。
お前の恋人はもうアパートを引き払って辞表も出している。
連絡も取れないだろう。
婚約の話を今までお前に黙っていたのは悪かったと思っているが、恋人の件が片付かないうちに話すことはできないと思った」

淡々と続ける父に、さらに怒りが増していく。

「片付く…?片付かないまま結婚して、母さんを15年以上騙して死なせて!
あんたはまだそんな言い方ができるのか!」

父の目に明らかに驚きの色が宿った。

動揺したのか、小さくため息を吐いて顔をそらす。

俺や晴がこのことを知っていることを父は知らなかったんだから、狼狽えるのも当然だ。

母の日記で自殺の真相を読んだ時、俺と晴は父を問い詰めたり責めたりするようなことはしなかった。

日記には会社の心配ばかり書かれていたから。

俺と晴で、会社をよりよくしていってほしいという望みが書かれていたから。

もちろん心の中では父を恨んだ。

だからひたすら勉強し、大学では優秀な学生に給付される奨学金制度を受け、小さなアパートを借り、金銭的なことは全て自分で工面した。

それでもこの会社に入ることにしたのは、やっぱり母の『望み』があったからだ。

だけど、父は母が死んでも何も変わらなかった。

母の死に、この人には何の懺悔もなかったのだ。


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