別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
もうこの人にはなんの情も出てこない。

会社がどうなったってどうでもいい。

「俺はここを辞める。
俺の代わりなんていくらでもいる。
血縁にこだわらなければ、優秀な社員だっているだろう。
でも俺にとって加奈の代わりはいない」

「無駄だ。もう連絡を取れないのにどうやって探す気だ?
それに、ここまで進んでいる婚約話を前に、お前は『結婚できない』なんて言えないだろう。
そのくらいの分別は持っているはずだ」

「全部計算づくか。かいかぶりすぎだ。
最初に分別を欠いた行動に出たのはあんたのほうだろ!」

部屋を出て乱暴にドアを閉め、俺はそのままズカズカと晴の元へ向かった。

父さんは煩わしいことは自分でしない主義だ。

きっと加奈と父さんとの間には誰か繋ぎ役がいたはずだ。

だとすれば、それは晴しか思い当たらない。

晴がいるフロアのドアを開けて覗き込むと、俺に気づいた晴は驚く様子もなく立ち上がり、こちらにやってきた。

それを見て確信した。やっぱりこいつも関わっていたんだと。

「ちょっと来い」

「…うん」

晴は素直にこくりとうなづく。


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