別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
「加奈はどこだ」

廊下の壁に晴の背を叩きつけて問い詰める。

「…俺も居場所は知らない」

顔を逸らした晴の心情は読み取れない。

「でも、お前が俺と加奈の見張り役をしてたのは確かなんだろ?」
なんでだよ…っ母さんのことでは、お前も父さんを恨んでたじゃないか!」

晴は大きな息を逃して俯いた。

「加奈ちゃんは、好きな人が結婚してしまうのを見たくないって言った。
それは俺も同じだ。
俺が兄貴と加奈ちゃんに協力すれば、2人はうまくいって結婚できるかもしれない。
だけど、そしたら俺は…好きな女が結婚して幸せになるのを、義弟として目の当たりにすることになる。
そんなのは耐えられなかった」

「晴…」

愕然として言葉を失った。

考えもしなかった。

冗談じゃなく、晴が加奈を本当に好きだっただなんて。

晴には特定の彼女が長い間いなかったはずだ。

いつから…

「ごめん、兄貴。
手続きは代理人が全てしてくれたし、俺も加奈ちゃんを吹っ切るために連絡先は聞かなかった。
俺にももう連絡はつかない」

いつものんきに笑っていて、兄の俺にさえ掴みどころのないと思っていた晴が、こんなにも泣きそうに掠れた声をしている。

責め立てようなんて気持ちはもう出てこない。



< 149 / 179 >

この作品をシェア

pagetop