別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
2人掛けのローソファに座ってテレビ番組を検索し、クイズ番組でリモコンの手を止めた。

面白そうな番組ではないし、BGMが欲しかっただけで真面目に観るつもりはない。

さっきお酒を飲んできたというのに、秋は冷蔵庫から缶ビールを二本取り出した。

缶をコツンと軽くぶつけ合って、再度乾杯をする。

「とりあえず繁忙期が無事に過ぎてよかったな」

「うん、去年のセールと似た系統が多かったから、伺書も会計ではあんまり引っかからなかったんでしょ?」

「まあな。でもそれって去年と変わらない無難な商品ばかり出してるってことなんだよな。
ECモールに出店してない分、もっとインパクトのある企画をして集客できるようにしないと」

独り言のように呟く秋は、いつか自分が経営陣になるという自覚がちゃんとあるんだろう。

今は修業期間。

ただ仕事をこなしているだけじゃなく、その中で問題点や課題を拾って、それを重役になった時に活かせるようにちゃんと考えているのだ。

こういう時、秋が少し遠くなったような気がして寂しくなる。

「あ、執行役員の仕事に少し加わることになった。
週に1回の会議」

「そうなんだ」

話のついでのようにさらっと言ったから、深刻に受け止めなかった。

そもそも、執行役員はあくまで経営陣とは違って普通の社員のはずだ。

秋はまだ20代で、大学院を出て就職してまだ3年目。

大卒で就職した私と1年しか職務経験は変わらない。

修業がいつまで続くのかいつから重役になるのか、秋自身全く知らされていないようだから、まだまだ先の話なのかもしれない。


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