別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
「加奈、加奈?」

「ん…」

控えめに肩を揺らすと、加奈は目を閉じたまま声を漏らした。

「大丈夫?具合はどう?」

加奈の唇が小さく動き、目尻から涙が伝い始める。

「…あき…」

振りしぼるような、か細く苦しい声。

彼の夢を見ているんだろうか。

その姿があまりにも痛々しくて、胸が張り裂けそうになった。

そこまでして離れなきゃいけなかったの?

そんなに会社にとって『政略結婚』は大事なことなの?

ぐっと唇をかんだ。

ただの一社員である私には何もわからない。

だけど、加奈の想いは痛いほど伝わってくる。

涙が出そうになるのを堪えて、カバンから4つ折りの紙を取り出した。

引っ越しの準備を手伝った時に、加奈の本棚の間からひらっと落ちたノートを破いた紙。

『これ何?』と聞こうとしたけど、『別れる前にしておきたいこと』と書いてあるのが見えて、聞こうとした言葉を思わず飲み込んだ。

良くないと思いつつもそれを読んで、加奈の想いが紡がれた言葉に涙が溢れた。

私はそれを加奈には渡さずに、自分のGパンのポケットに詰めた。


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