別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
婚約者との対面までの数日は軟禁状態だった。

通販部の仕事からは急に外され、現専務から専務職の引継ぎを受ける。

仕事が終われば迎えの車が来て実家に泊まらされる。

あくまで婚約を強引に進めるつもりだ。

いくら反発しても、会ってしまえば俺は断れないと父さんは踏んでいる。

婚約者である女性に恥をかかせるようなことはできないと。

晴が自由主義でマイペースだから余計になんだろうが、俺のことを常識的で道理を弁えた人間だと思っているのだ。

だけど、加奈の気持ちを知って分別だの道理だの言っていられるほど、俺は立派な人間じゃない。


対面の日。

この時になって初めて婚約者の名前を知らされた。

下着メーカー『HARUNA』の榛名(はるな)ひよりさん。23歳。

会う場所をうちの会社にしたのも、きっと俺が逃げられないようにするためだろう。

相手方の社長のあとをついて社長室に入って来たのは、とてもきれいな女性だった。

長い黒髪。丸い瞳。白い肌。4つ年下だけど、歳よりも幼い印象だ。

互いに挨拶をしてソファに座る。

その所作だけで、とても育ちがいいのは見てとれる。

重役の夫人としては申し分ないのだろう。

それでも、俺の頭に浮かぶのは加奈のことだけだった。


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