別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
父親同士が少しの間談笑し、俺とひよりさんも父たちに言われるがままに当たり障りのない話をした。

俺や晴の前で滅多に笑わない父も、こういう状況ならいくらでも愛想笑いをする。

そのことがとにかく憎らしいと思った。

「少し2人きりにしていただけませんか?
2人でお話してみたいんです」

俺が言おうとしていたセリフを先に切り出したのは、彼女のほうだった。

「そうだな。若い二人で少し話をしてくれ」

俺たちが和やかな雰囲気だったことに安心したのか、父親たちは笑って話をしながら扉の向こうへ去っていく。

声が遠ざかっていくのを確認して、彼女は口を開いた。

「…少し前にこちらにご挨拶に来たときに、弟さんにこっそり紙を渡されたんです」

「え…」

彼女はカバンから小さく折りたたまれた紙を取り出し、テーブルにそっと置いた。

多分、コピー用紙を小さく切ったものだ。

「…見てもいいんですか?」

「はい」

ひよりさんが力強くうなづいたから、俺はその紙を手に取った。

小さな文字でびっしり書かれた文章。

『無礼は承知の上です。
兄には大切な人がいますが、婚約を機に父に引き離されてしまいます。
僕のことはいくら責めてもかまいません。
会社にいられなくなる覚悟もできています。
どうか、兄を助けてください』


晴…?


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