別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
「…これはいつの話ですか?」

下手くそな文字。だけど確かにそれは晴の字で、紙を見つめたままひよりさんに尋ねた。

「私がここに挨拶に来たとき…11月の半ばです」

晴…なんでこんなこと…

こんな紙をひよりさんが自分の父親に見せれば、会社同士の親交に関わる。

当然晴は咎められ、勘当されてここにはいられなくなるかもしれない。

「どうしてこれをお父様に見せなかったんですか」

「私は、会社のために嫁ぐということに疑問を感じていました。
好きな人とお付き合いして、その人と結婚して…
周りの友人がそうやって幸せになっていく中で、私にはどうしてそれができないんだろうと。
この紙を見て決心がついたんです。
婚約は、私のほうの都合で破棄。
それでよろしいでしょうか」

真っすぐに俺を見つめる彼女に、さっきまでの幼い印象はまるでなかった。

「私もいつか自分で大切な人を見つけて、その人と幸せになりたいです。
秋さんも、大切な人の元へ戻ってあげてください」

やわらかく微笑む彼女に、目が熱くなる。

「…ありがとうございます」

『ありがとう』以上の感謝の言葉を伝えたいのに、そんなものは思いつかなかった。

ただただ、深く頭を下げた。


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