別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
――コンコン

ノックのあと、こちらの様子をうかがうように

「話はできたか?」

と言いながらゆっくりとドアを開けて入って来た父親たち。

ひよりさんは一度俺のほうを見て小さく微笑み、立ち上がって父親に向き合った。

「お父様、私、この方と結婚はしません」

さっきまで笑っていたはずのふたりが、少し呆然としたあと、戸惑いと怒りでみるみる顔を歪めていく。

「お前っ何を言ってるんだ!今さらそんなことを!」

「榛名社長、落ち着いてください。
秋!お前がひよりさんに失礼なことを言ったんだろう!」

どちらも顔を真っ赤にして怒っているけど、ひよりさんは思いのほか冷静だ。

「私は幸せになりたいんです。
それは秋さんも同じことです。
だけど私と秋さんが結婚しても幸せになれない。
そう思ったから、私から秋さんにお断りしたんです」

言葉も出ない様子の父さんたちはただ立ち尽くしている。

「私は会社の犠牲にはなりません。
大切な人は自分で選びます」

凛とした態度でそう言い切ったひよりさんは、

「本当に申し訳ありません」

と俺に深々と頭を下げた。


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