別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
「加奈ちゃん」

私を先に廊下に通し、扉を閉めた晴くんの躊躇い気味の声にゆっくり振り返った。

私は今どんな顔をしているんだろう。

わからないけど、深刻そうな表情だった晴くんは、私を見てさらに眉根を寄せた。

「…俺からも少し話していい?
言い訳になっちゃうけど」

正直なところ、頭が混乱していてそんな状態じゃない。

だけど、晴くんが話そうとしていることもとても重要なことなんだろうと思ったから、首を横に振ることはできなかった。

そのまま同じ階の端にある『常務室』と書かれた部屋に連れて行かれた。

社長室をそのまま少し狭くしたような造りの部屋で、中には誰もいないし使われている気配もない。

「今のウチの会社のシステム上、今は常務取締役っていうのはいないんだ。
常務執行役員ってのはいるけど、それはあくまで社員であって経営陣じゃない。
だから…あーまあこんな説明はいいんだけど、とにかくここは空き部屋。座って」

無理やり明るく振舞うように、晴くんは私のほうを見ないまま早口で説明をし、ゆっくりと腰をおろした私の隣に座った。


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