別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
「それならなんで…
秋も晴くんも、お父さんのこと恨んでるんじゃないんですか?
なのに会社に入るなんて」

「その日記に、兄弟で協力して会社のために尽力してほしいって書いてあったからだよ。
だから俺も兄貴も、日記のこと自体を父に話してない。
今さら問い詰めたって母は戻ってこないし、裏切られていたとわかっても、母は会社の心配をしていたんだから」

5年も付き合っていたのに私は気づかなかった。

秋が抱えてきたものは、単に会社の偉い立場になるなんて安直な私の想像を遥かに超えていた。

秋が政略結婚を否定してくれていたのは、きっと母親のことがあったからだ。

自分は父親と同じことはしないという強い思いの表われだったのかもしれない。

だけど、秋の思いとは関係のないところで、話は着々と進んでいた。

「ごめんね、加奈ちゃん。
俺ら、母さんのこと、すごくショックだったからさ。
政略結婚の話が進む以上、加奈ちゃんのことを応援してあげられない。
兄貴には加奈ちゃんのことを吹っ切ってもらって、婚約者と誠実に向き合ってもらいたい。
だから…婚約が決まる前に、別れてほしい」

胸に鋭く痛みが走り、晴くんの言葉が頭の中でこだまする。

社長に言われるよりも晴くんに言われるほうがずっとショックなのは、晴くんなら私の味方をしてくれると心のどこかで思っていたからだ。

だけど、そんなのは所詮甘い考えに過ぎなかった。


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