別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
翌日の仕事は、朝から全く頭が働かなかった。

最近秋のことを考えてずっと寝不足ではあったけど、その分疲労がかなり溜まってきている気がする。

「…さん、…水原さん」

「え?」

ずいぶん遠くから声が聞こえた気がした。

声の方向を見たら、書類を持って私のそばを通りかかったらしい真野さんが顔をしかめてこちらを見ていた。

「大丈夫?顔色が悪いみたい」

「え、そんなことないですよ。
ちょっと食欲なくてご飯抜いてきちゃったから、そのせいかもしれないです」

「水原さん、元々細いんだからちゃんと食べないと」

「大丈夫ですよ。案外お肉ついてます」

おどけて笑いを返しながら、書類をデスクで揃えた。

コピーを取りに立ち上がったとき、足元がふらついたと思ったらゴンっと音がして頭に衝撃が走った。

目には椅子の脚が映っている。

状況は案外すぐに飲み込めて、自分が倒れているんだということがわかった。

…マズイ。これは頭打ったな。

冷静に思いながら、だんだん目の前が暗くなる。

「水原さん!!」

「大丈夫ですか!?」

「どうしたんですか」

「急に倒れて…」

「水原さん!」

たくさん声が聞こえる中で、ほらね。

やっぱり秋の声だけは、すぐにわかるよ……


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