別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
部屋に入って来た秋は、見るからに目元が疲れていた。

こんな時間まで仕事をしていたのなら当然だ。

なのに、私を見た秋はホッとしたように微笑む。

「昼間より少しは顔色がいい気がする」

「ごめんなさい。心配かけて」

へへっと小さく笑ったら、秋は軽くおでこを小突いた。

「色々買って来たから、食べられるの食べて」

秋が持っていた袋にはヨーグルトやゼリーがたくさん入っていた。

自分のほうが顔色悪いくせに、こんなやさしくしてくれなくていいのに。

「なんかあったのか?
加奈は心の不調がすぐ身体に出るから」

心配そうに覗き込む秋の目にゾクッとして、思わず顔をそらした。

一瞬、重なって見えた。

『別れてほしい』と言った社長の目と。

秋本人にまで現実を突きつけられた気持ちになった。


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