別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
お昼に葉山からラインがきて、人目につきにくい上層階の穴場のラウンジで待ち合わせをすることになった。

ここは応接室ばかりが並んでおり、昼休みに人が来ることは滅多にない。

「呼び出して悪いな」

葉山は椅子に座って、すでにコンビニの大盛パスタをプラスチックのフォークで食べている。

「もしかして葉山のところも噂になってる?」

「えっゴホッそっちも?」

驚いたように少し咳込んで、それでも葉山は食べることをやめず、くぐもった声で言う。

誰が見ていたのかは知らないけど、どうしてこんなにすぐに噂になるんだろう。

一度一緒に帰っただけなのに、結婚なんてワードまで拾われてしまっているなんて。

「変な男がつきまとってるからしばらく一緒に帰ってるだけだって正直に言ったけど、女ってなんでそういう噂話好きなんだろうな。
ずっとニヤニヤしてた」

「そうだろうね…」

ため息が漏れる。

全くの他人事であれば、私も女として噂話は好きなほうだけど、いざ当人になってしまうと大迷惑な話だ。

「ごめん、葉山。
今日送ってくれなくていいよ」

「いや、送るよ。
なんかあったらマズイだろ。
噂なんてそのうち薄れるし、友香がそうしてやれって言ってるし」

「友香…やっぱりやさしいね。
自分の彼氏がどこぞの女と結婚の噂まで出てるのに」

「どこぞの女って」

爆笑する葉山はのんきなものだ。

「友香はお前をすげー心配してるんだよ。
加奈はすぐにパニクって動けなくなっちゃうからって。
今日はいないといいな、あの変な男」

…さすが幼なじみ。友香はよくわかっている。

ありがたい話だ。

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