別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
「なんかさあ…大人になっちゃったよなあ俺ら」

松坂がビールを見つめながらしみじみ呟く。

「なに?いきなり」

「仕事して金稼いでこんなふうに会社帰りに飲むのって、昔は憧れてたけどさ。
もう学生の頃には戻れないんだよなーって、あの頃とは変わっちゃったんだなーって最近虚しくなる」

沈黙がおりた。

失恋を引きずっているんだと、多分今ここにいる誰もが思っているだろう。

松坂が別れた彼女は、大学からの付き合いだったはずだから。

かけてあげる言葉が見つからない。

そんな中、葉山はお腹をさすりながらあっけらかんと言う。

「大人になったっていうか歳取ったなあとは思うけど。
運動不足だし、腹の肉がちょっと気になりだした」

「ちょっとじゃないでしょ!
大体あんた大食いすぎるんだよ!」

すかさず友香に突っ込まれてしゅんとする葉山に、みんなで大笑いした。

いい意味で空気を読まない葉山に救われる。

大学時代の恋人、か。

私は松坂とは全く違うケースではあるけど、今の松坂の言葉はやけに胸に沁みる。


ビールは結局乾杯の一杯すら飲み干せなくて、つまみもほとんど食べれなかった。


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