別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
金曜日と言うことで、野村はこのあと彼女の家に泊まりに行くという。

幸せそうな野村に「いいなー」と口を尖らせながら、家が同じ方向の松坂と真衣は一緒にタクシーで帰ることになった。

友香と葉山はもちろん一緒だ。

「じゃあね」

「またねー」

駅前で笑顔で手を振ってみんなと別れ、私は少し立ち尽くしたあと歓楽街のほうへ戻った。

飲みたい気分なわけじゃないけど、なんとなくひとりの部屋に帰りたくない。

「あーかわいい子見っけ」

あてもなく歩いていたら、私を指さしてきたのは真っ赤な顔のサラリーマンだ。

隣のサラリーマンと肩を組み合っていて、完全な酔っ払いだ。

「ひとりで飲みに行くの?
一緒に行こうよー」

「いえ、けっこうです」

「えーそんなこと言わないでさあ。
奢るからさあ」

目をそらして前へ進もうとするけど、2人の鉄壁に阻まれる。

どうしようか…

一歩後ずさったら、固い何かにぶつかった。

「俺の連れになんか用ですか?」

振り返る前に肩に手が添えられ、私の目には背の高い葉山の顎が映った。

「な、なんだよ男連れかよ」

急に酔いが冷めたように弱気な声になった男2人は、及び腰で去って行った。


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