別れる前にしておきたいこと ー Time limited love ー
近くのチェーン店の居酒屋に入ると、週末だというのに思いのほか空いていた。

メニューに目を落としながら友香が言う。

「加奈はさっきビールほとんど飲んでなかったでしょ。
つまみも食べてなかったし、ウーロン茶とかのほうがいいかな」

友香は私よりも離れた場所で飲んでいたはずなのに、バッチリ見られていたことに驚いた。

「…うん、そうする」

「食べられそうなつまみある?」

「んー枝豆とか?」

「食べられるのあったら遠慮しないで頼んでいいよ。
どうせ葉山の奢りだし」

「俺?」

葉山が素っ頓狂な声をあげて自分を指さす。

「当然でしょ?葉山が一番飲むし食べるし」

「んーまあいいか。
デートで奢るのは当然だしな」

あっさり納得した葉山に思わず吹き出した。

こういうのが葉山のいいところで、いじられる愛されキャラなのだ。

葉山が店員に声をかけ、飲み物とつまみを少し頼んだ。

先に飲み物が届いて乾杯したあと、友香は私に目を向け、やさしく問いかける。

「で、何があったの?
加奈、最近ずっとおかしい。
彼氏と喧嘩でもした?」

「え…」

目を丸くする私を気にする様子もなく、葉山はビールをグイっと飲む。

「彼氏いるなんて、私言った…?」

「聞いてはいないけど、ずっといたでしょ?
そのくらいわかるよ。
まあ、真衣は気づいてなかったみたいだけど」

友香はこともなげに微笑む。

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