世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
「じゃあこれは樹に貼っといてあげるっ」
「瑞希っ! いい加減に……」
少し照れくさくなったのを誤魔化すように、樹の背中にシールを貼って足早に逃げる。
背中の中央に貼られたシールに樹は手を伸ばすけど……どうにも届かないようであたしは吹き出した。
「どんだけ身体固い訳?!」
「うるせぇな。いいから取れ」
「えー……タダじゃやだ」
「てめ……」
苦笑いした樹に捕まりそうになって、走り出したところで玄関のチャイムが鳴った。
そこまで広くはない部屋をどたばたと走り回ったせいで聞こえ難くなったチャイムに、樹が敏感に反応した。
そして……
「来た。……おまえやっぱりその格好……」
「大丈夫だって! 逆に、この方が同棲してるみたいでよくない?」
「……何言ってももう遅いし諦めるか。じゃあ頼むからな」
腰の辺りで拳を握って気合を入れる。
そして樹がドアを開けた途端……入り込んできた女に、あたしは柄にもなく少しビビッてしまった。
「椎名くぅん! やぁっと会ってくれたぁ。麻衣ちゃん、毎日来てるのに、椎名くんいっつも留守だしぃ~」
……ナンダ、コレ。
何の生物デスカ?
なだれ込むように入ってきたのは、ぽっちゃり系……を通り越した感じのギャル。
汚ギャル、っていうんだっけ?
冬なのにこんがり焼けた……ってゆうか、焦げてる肌。
アイメイクは、真っ白のシャドーに黒い太すぎるアイライン。
バチバチと音がしそうな、付けまつ毛。
しかもチャン付け……
そんな顔に負けじと目立っているのは、冬なのに突き出るように露出されたお腹。へそピ付き。
……樹ってばどんな趣味だよ。
麻衣っていう汚ギャルの登場に、疑惑の眼差しを樹に向けていると、樹が静かに首を振る。
違うって言いたいんだろうけど……だろうけどさ、デートした訳でしょ? この麻衣ちゃんと。
「麻衣ちゃんね、椎名くんの為に詩を作ってきたんだぁ。読んで?」
「……麻衣、さん。その前に紹介したい子がいるんだけど」
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