世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
樹の半ばやけくそな声に、あたしは心の中でガッツポーズ。
やったね。
減らず口に育ててくれたお兄ちゃんに感謝。
……やっぱり取り消し。
取り消し取り消し。感謝なんかするもんか。
あたしは浮かんでしまった言葉を頭の中から抹殺する。
今は……「お兄ちゃん」って言葉だけでも癪に触るんだ。
どうしても、今は……
それにしても。
樹って結構いい奴だと思う。
口は悪いけど、たまに優しいし。
こんなあたしの芝居がかった情にも流されちゃうし。
割と笑い上戸だし。
でも世渡りは下手そうだけど。
……だって、頼み聞いてくれたら2万とかってありえないし。
大工さんとかの日給以上だし。
まぁ……そこもまた可愛いとも思えなくもないけど。
※※※
「で、おまえの家出の原因はなんだよ」
「わかんな~い……」
あれから、お風呂を済ませたあたしはまたジャージに着替えて、その勢いで冷蔵庫を開けてビールを発見。
飲むなって怒る樹に1本だけと懇願して、未だ樹の背中に付きっぱなしだった林檎うさぎシールを剥がしてあげるから、って交換条件で樹を頷かせた。
「おまえ……オレが風呂入ってる間にすっかりできあがってんな。
普通ビール1杯で酔うかよ」
「酔うもん……ってゆうか、あたしお酒なんかあんまり飲めないもん。ビールなんか苦くてうえってなるし」
「じゃあなんで飲むんだよ……」
完全に呆れた樹があたしの残したビールを口に運ぶ。
その様子をぼーっとした視界に映しながら、あたしは唇をぎゅっと噛んだ。
「だってさ……むしゃくしゃして。
それに、大人になりたいな~なんて」
「……で、理由は?」
再度聞かれた質問に、あたしは渋々言葉を口にする。
本当は言葉にすると、それを現実だって認めてるみたいで嫌だったんだけど……
慣れないお酒が、あたしを少しだけ素直にさせたみたいだ。
「……お兄ちゃんが他の女と結婚するんだって」
口を尖らせながら言ったあたしに、樹は呆れ顔で……そして、一気に笑い出した。
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