世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
2..たった1つの約束事


「……そういえば、なんで麻衣ちゃんと一緒に帰ったりしたの?」


涙が引いて落ち着いた頃、樹の手を軽く払いのけながら言った。

泣き止んだあたしに樹は少し黙って……だけど、あたしの方を見る事なく、あたしの目元から手をどけた。


一気に明るくなった視界が眩しい。

ただの蛍光灯のはずなのに、やけにキラキラしてて、目に痛い。


「……ちょっとな」

「タイプだったとか?」

「バカ言うな」

「その言い方は失礼だよ。……じゃあなんで? ってゆうか隠す必要なんかないじゃん。どうせ3日後にはいなくなるんだから」


あたしの言葉に、樹は少し黙って……ビールを一口飲んでから話出した。

話し出すまでのどこか遠くを見つめた瞳が、初めて会った時の切ない表情を思い出させる。


「逃げたかったんだよな」


ぽつりとこぼされた一言。

だけど、あまりに省略されすぎた言葉に、あたしはそれを模索してみるけど思い当たる事なんかなくて。

考え込んでるあたしに気付いてか、樹がぽつぽつと話を続けた。


「陸上やってたって言っただろ?

で、大学でもやろうって思ってたんだ。別に他に入りたいサークルもなかったし。

でも……そこに、高校ん時どうしても適わなかった奴がいたんだ」

「え……ずっと1位だった人?」

「そ。そいつがよりによって同じ大学で……陸上部に入ってたから、なんとなく入れなくて」


そこで話を止めてしまった樹。

その先を聞いていいものかどうか迷ったけど……迷ってる間に、樹は違う話題へとすり替えてしまった。


「しかし女って分かんねぇな。あんなんで付き合った事になんのかよ」


そう言って笑う樹に、あたしも頭の中の話題転換をして同じテンションで答える。

触れられたくない話題なら、無理に持ち出す事もない。

どうせ3日後にはバイバイなんだし……


「樹の女の選び方が悪かったんだよ。本気になりそうな子選んじゃったのが悪い」

「へぇ、そっか。……じゃあおまえは? すぐ本気になる性質?」

「さぁ……本気で好きになった事ないから分かんない」



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