世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
「……ねぇ、樹のベッドってシングルサイズじゃないね?」
「あぁ、ダブル。物少ないしベッドくらいは……って、なんで今んな事聞くんだよ。嫌な予感がする」
「樹は寝てる女を襲うような卑劣な真似しないよね」
「……いや、する」
「いや、絶対しない。だから一緒に寝ても安心だよね」
「つぅかおかしいだろ! 普通に常識で考えろ! 会ったばかりの男のベッドで寝る女が一体どこに……」
「その辺にいっぱいいるんじゃない? まぁ、いいじゃん。こうすればお互い風邪引かない訳だし、逆に言えばこれ以外お互いが納得できる方法なんてないし」
「一緒に寝るんだって納得なんかできねぇよっ!!」
澄んだ冬の空に浮かぶ月が、優しい月明かりを部屋へと差し込ませる。
6階建てマンションの5階に位置する樹の部屋には、それを遮るものなど存在しない。
……そう何も。
在って欲しいカーテンすら、存在しない。
「ねぇ、カーテンくらいつけなよ」
「……人のベッドに入ってきておきながら意見すんじゃねぇ」
「でもさ、覗かれたりしてるかもよ? 樹って口は悪いけど黙ってれば結構いい線いってるし」
「その言葉はそのままそっくり倍にしておまえに返してやりたいよ。
……なんなんだよ、おまえは。もう早く帰ってくれ。オレはなんでこんな女と一緒に寝てんだよ……」
「言われなくても3日後には帰るよ。それにしても、樹は断るのが下手だよね。
もっとちゃんと断らないとそのうち悪い人に騙されるよ」
「今も騙されてるよ……つぅか、おまえが言うなっ」
別に騙してる訳ではないんだけど……まぁ、上手く丸め込んだには違いない。
だけど……
あたしだって、何時間か前に会ったばかりの人と一緒のベッドに寝るなんておかしい事くらい分かってる。
そこまで常識外れじゃない。……つもり。
襲われたらどうしよう、とか……考えない訳じゃないし、今だって本当は少しだけ緊張してる。
樹が体勢を変える度に軋むベッドとか、ぬくもりが伝わってくる毛布の中の空気とか……
ドキドキする。
だけど、それは決して悪いものだけじゃなくて。
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