世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】


「……言っておくけど何もしてねぇから。期待させたんなら悪いけど」

「期待なんかしてないし。ってゆうか捻くれてもいないし」


朝から、家の事情を一通り話したせいで、なんだかもう大半のエネルギーを使ってしまったような感覚だ。

低血圧なのに、人を叩き起こすなり「話せ」なんて命令されて……迷惑もイイトコ。

……いや、まぁ迷惑かけてるのはあたしだけど。


「で、本当にここに居て心配しないんだな? おまえの家族は」

「しない。ってゆうか、昨日のうちにメールしといたし。友達の家に3日間泊まるって」

「……そんなメールだけで心配しないなんて随分緩い家族だな」

「お兄ちゃんは心配してるかもだけど……両親は割りと、ね」


目を伏せたあたしに気付いたのか、樹はあたしの答えを待たずに話題を変えた。


「それにしてもいい天気だな。久しぶりにドライブでも行ってくるかな……」


独り言のようにも取れるその言葉に、あたしは満面の笑みで食いつく。



「行きたい!! 海とか見たい!!」

「……誰もおまえを連れてくなんて行ってねぇけど」

「ちょっと待ってね! 食べたらすぐ着替えるから! 9時出発って事でよろしく!」


口に運んだパンを牛乳で流し込むと、樹が呆れたような笑みをこぼした。

ほら、やっぱり断り下手だ。


樹の姿に笑みを浮かべながら、あたしはデザートのプリンに手を伸ばした。



 ※※※


「……なに、コレ」


あたしが「コレ」と指差した先には……なんていうか、平べったい地面を這うように置いてある黒い車。

タイヤは車体の側面からはみ出しているんじゃないかと思うくらい太いし、マフラーだって……なんで2本?


疑問だらけの車に、樹は鼻高々に答える。



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