世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
「すげぇだろ。オレの愛車、フェアレディZ。ちなみに32。少し前に売り出したのは33なんだけど、やっぱりZは31、32が渋いだろ」
「なに? 32とか33とか……フェア? あぁ、フェラーリ? スポーツカー?」
「フェラーリ=スポーツカーって発想止めろよっ! 確かにフェラーリはすげぇけど、オレのZだって、かなりの線……」
「いいよ、なんだって。さ、出発出発~」
長くなりそうな樹の車話を遮ってご自慢の車に乗り込む。
車高が低すぎて乗りにくいけど、まぁ、その文句は言わないでおこっと。
……マニュアルだし、なんか変なメーターも超いっぱいついてるけど、シートもサーキットにでも参加するような、いわゆる普通のじゃないけど、まぁそれも胸の内に締まっておこう。
話が長くなりそうだから。
「海だっけ?」
「うん!」
久しぶりの海に胸が高鳴る。
わくわくともウキウキとも言えない気持ちを抱えながら、あたしはシートベルトを締めた。
※※※
「……耳が痛い」
ついでに言えば腰も痛い。
あたしは後ろに佇む黒く光る鉄の塊を睨みつけた。
「あの音、堪んねぇだろ。こう、腹にくる重低音」
「本当に堪んないよ……」
目の前に広がるのは海なのに、空はきれいに晴れ渡ってるのに……気分がこんなんじゃ台無しだ。
あたしは気を取り直して、砂浜に脚を踏み入れ……ようとして止めた。
「寒……」
「寒いよな……2月に海来る奴なんかオレ達くらいだな」
「普通に考えたらありえないよね。ってゆうか、止めてよ、あたしが提案した時点で」
「オレだってまさかこんなに寒いと思ってなかったんだよ。それにおまえが……」
言いかけて止めた樹をあたしは見上げる。
あたしよりも10センチ以上高い身長の樹が、あたしの視線から顔を逸らした。
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