世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】


「なに照れてんの? それにあたしが、なに?」

「……なんでもねぇよ」

「嘘! なんか言いかけたじゃん!」

「空耳だろ」

「ふーん……」

「あ、おま……やめろってっ…こらっ」


横から忍ばせた手で樹のわき腹をくすぐると、樹が身を捻って嫌がった。

こんな風に何も思わずにボディタッチが出来るのは、やっぱりお兄ちゃんと一緒にいた時間が長いからなのかな。

それとも、樹だから?


出合って1日なのに、かなりの信頼を置いてしまっている自分に呆れつつも、子供みたいに『ちょ、タイム!』なんて言ってる樹に笑みがこぼれる。

たった1日。

なのに、確かに感じる。


樹の隣の心地よさを。

友達とも、お兄ちゃんとも少しだけ違う、心地よさ。


「だから、おまえが凹んでたからわざわざ来たんだよっ! 海来たら少しは元気になるかもって思ったから!」


断り下手で、騙されやすくて、情に弱くて……そして、口が悪いけど優しい樹。


こんな風に、あたしが強要しなければ言葉にする訳でもない心配をされると、すごく安心する。

ブラコンでどうしょうもないあたしなんかに微笑んでくれる樹に、胸が熱くなった。


こんな寒い砂浜が、余計にそれを強調させる。

隣にいる樹との距離がやけにじれったく感じて……思わず手を伸ばすと樹が困ったように笑みをこぼした。


「なんだよ、この手は」

「なんとなく……なんか触りたくなっただけ」

「変態」

「別にいいじゃん。一肌恋しいってやつだよ、きっと。樹がこんな寒い海になんか連れてくるから」

「オレのせいかよ」


そう笑いながらも、樹はあたしの手を振り払おうとはしなかった。


「ここにいたら確実に2人して風邪引くな。……あっちにモールがあるからそこ寄って昼飯食って帰るか」

「うん。賛成」


いい加減限界だった海風の冷たさに、あたしは樹に二つ返事を返す。

歩き出した樹とあたしの間で……繋がれた手が揺れる。


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