世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
樹の反対を押し切って、あたしは5つのマグネットをレジに出した。
「これ、樹にあげるね。お昼のお礼」
「おまえっ、ふざけんな! そんなファンシーなのオレの部屋には似合わねぇよっ」
「あんな色気のない部屋に住んでたら身体に悪いって」
「色気の意味が違うだろっ」
「も~……いちいちうるさいなぁ。
いいじゃん。お昼ラーメンだったんだし。ってゆうか女の子相手にラーメンって何?」
「おまえが食いたいって言ったんだろっ」
ふざけ合う次元を超えた口げんかを目の当たりにした、レジのお姉さんはクスクスと笑う。
そんなお姉さんに苦笑いをしてから、そのお店を出た。
「はい、プレゼント」
「……ほんっとにおまえは勝手な奴だな」
そう言いながらも、樹は優しい笑みを浮かべていて……その樹の表情に、あたしの胸がトクンと跳ねた。
それは、昨日と今日で何度も見た笑顔なのに……
なんでだか、胸を高鳴らせてそれを戻そうとしない。
そんな鼓動を自覚してしまったあたしは、樹を変に気にしてしまって……それからは手が繋げなかった。
何も思わずに繋げたはずの手が、さっきまで触れられた手が……なぜか動かない。
伸ばそうとしても、それは行き先に辿り着かず、宙をきって……そのまま漂った。
それを見た樹が不思議そうにしていたっけ。
恋って……あたしは激しくドキドキするものだって決め付けてた。
お兄ちゃん以外に恋なんてした事なかったから……だからそう決め付けてたんだ。
だから、この時はまだそんな気持ちに気付かなかったの。
だって、樹との時間は本当に穏やかで優しくて温かくて……それが恋だなんて少しも思わなかった。
触れると安心するとか、樹の笑顔に胸が高鳴ったりとか……考えてみればそれは紛れもない恋なのにね。
あたしはそれまでお兄ちゃんに依存しすぎてて、知ってる事が少なすぎた。
だから、気付くのに遅れた。
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