世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
別に、そんな事も心から信じてる訳じゃないけど……だけど、お兄ちゃんが口癖のように言ってたから。
なんでも神様にお願いするよりはずっと現実的だから、いくらあたしでもそこまで否定しようとは思わない。
努力したって駄目な事はもちろんあるけど……
それを真っ向から否定できるほど、あたしも自分を諦め切れてはいないんだ。
頑張ってればいつか……なんて、つい夢見ちゃう自分も知ってる。
あたしの言葉に、樹はなぜだか黙ってしまって。
気になりながらも、あたしは買ってきた缶チューハイを開ける。
プシュッと気持ちいい音を立てて開いた、チューハイが、甘い香りを部屋へと広げる。
※※※
「樹はなんで1人暮らししてるの?」
チューハイ片手に聞くと、樹が少し間を空けてから口を開く。
「大学に近いから」
「いいな~、1人暮らし。でもよく親が許したじゃん。親が家賃とか払ってるんでしょ?」
「まぁな。……最初は陸上やるつもりだったから……だから許したんだと思う。ここからなら部活で疲れてても帰宅が楽だし」
「そういえばさ、樹のライバルは大学でも好成績なの?」
「あぁ、みたいだな」
「……もう一度挑戦する気はないの?」
話しにくいのか、樹はビールを口に運んで……ソファから立ち上がり、冷蔵庫へと向かう。
2本目を飲むのは別にいいけど、どうやら樹はそのまま話題をはぐらかしたいようで……冷蔵庫のカラフルなマグネットを笑った。
「クローバーはいいにしてもパンダはねぇだろ」
はぐらかしたいなら、それ以上は聞かない。……いつもなら。
それぞれ事情があるのはよく分かってるつもりだし、その前にあたしと樹は昨日初めて会ったばかりの他人な訳だし……聞くつもりなんかなかった。
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