世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
この時の涙は……
溢れ出した感情は、自分でもなんだかよく分からなかった。
ただ、樹の優しさが胸を突いて……自分でも止められなかったんだ。
ふんわりと樹の手が頭を撫でる。
暖房のついていないせいで、冷え切った樹の手が火照って熱を持った顔に気持ちがいい。
そんな事を思いながら、すぅっと息を吸い込んだ。
冷たい空気が一気に身体に入り込んできて……少しだけ気分を落ち着かせてくれる。
だけど……それ以上にもっとあたしを落ち着かせてくれる樹の存在に、身体の芯から暖かくなる。
いつも、あたしが泣く時はお兄ちゃんが隣にいた。
血が繋がっていないから、余計にあたしを気にかけてくれていたお兄ちゃん。
だけど、お兄ちゃんの事で泣く時は誰も隣には居てくれなくて……1人で流す涙は誰も拾ってくれない。
あたしのお兄ちゃんへの想いは……誰も、知ってくれない。
それが悲しくて、悲しくて……仕方なかったんだ――――……
だけどあたしが本当に望んでいたのは……
泣いた時、こんな風に一緒に居てくれる人だったのかもしれない。
冷めたフリしても、本当は甘ったれなあたしが望んでいたのは……
こうしてただ話を聞いてくれる人だったのかもしれない。
樹の手から伝わってくる優しさに、あたしはその日、初めて自分の気持ちを認めてもらえた気がした。
静かな空間が、『大丈夫だから』って慰めてくれてる気がした。
深く深く隠していた感情。
でもね、本当はずっとずっと知ってもらいたかった。
誰かに、話したかった。
叫びたかった。
こんなに大好きなんだって――――……
ねぇ、樹。
気付かなかった気持ちを見つけてくれたのは、樹の冷たくも暖かい手だったよ。
男のくせに細長く綺麗な指。
長い爪。
だけど、厚い手の平。
樹の手が、今こんなに愛しい――――……
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