世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
不思議な感覚だった。
触れただけですべてが満たされたような……そんな感じ。
吐き出したかった話を聞いてもらえたからなのか、それとも樹の人柄がそうさせるのか……
だけど、昨日までは確かに普通に接せられていたのに……急に……
でも……そういえば昨日もこんな事があった気がする。
突然感じとってしまった感覚に戸惑いながら、あたしはカップに暖めた牛乳を入れた。
樹に対する気持ちが少しづつ、少しづつ変わってきていて……
それは決して嫌な感じではなかったけど……それを自分で認める訳にはいかなかった。
明日には、もう終わる関係。
そうしたら樹はもう会わない人。
それに、あの約束――――……
それを何度も頭の中で繰り返して自分に言い聞かす。
……これ以上、感情が育たないように。
「いつまでも来客用のカップで飲むのも変じゃない? 自分のマグカップくらい買えば?」
「あー……まぁ、そりゃそうだよな」
「駅ビルの3階の雑貨屋さんにね、林檎うさぎの可愛いマグカップが売ってるよ」
「オレの趣味にあった提案をしてくれると助かるんだけど」
「黒い林檎うさぎのマグカップだもん」
「……黒けりゃいい訳じゃねぇだろ」
そんな会話をしながら、樹はあたしの作った朝ごはんをぺろりと平らげた。
それを見て嬉しくなって締め付けられた胸は……さっきのあたしの言い聞かせを聞いてなかったらしい。
飼い主に似て素直じゃない。
大体……樹なんか神経質だし、子供っぽいし。
だって、あたしのくだらない悪口にだってムキになってかかってくるし、小さな埃とか見つけるとすぐにコロコロし出すし。
……別にそれを嫌だとは感じなかったけど。
ってゆうか、全然そんな風には感じてなかったけど。
会ったばかりなのに、当たり前のように樹を受け入れてた。
言い返してくる樹を見て、コロコロを掛けてるところを見て、呆れて笑ったけど……それと一緒に込み上げてきていたのは――――……
可愛いな、なんていう思い。
その思いは……愛しい、に似てた気がする。
……イトシイ?
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