世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】


「愛しいって……なに、それ! えぇえ!?」

「うぉっ?! いきなり大声出すなよっ!ビビるだろぉが」

「……ごめん」


食器洗いをしていた樹が、怪訝そうに振り返って、あたしは慌てて口を閉じる。

……いや、閉じたつもりだった。


『ってゆうか、ってゆうか……なに、愛しいって!

ありえないんだけど!

確かに……確かに一緒にいて安心したり、落ち着けたりしたよ?

そりゃ、手繋いでその手を離したくないなって思ったりもちょっとだけした。

ずっとこうしていたいなんて……思ったり……したけど……

だけどそれって別にそうゆうんじゃ……

そう! そうゆうんじゃない!

大体、そんな急に好きになる訳……』

「いや、好きになるのは結構急になる事が多いだろ」

「!!!」


気持ちを読み取られたようなタイミングの樹の言葉に、あたしは勢いよく振り返る。

すると樹は濡れた手をタオルで拭きながら……少しだけ緩めた口からため息を落とした。


「ダダ漏れ。全部筒抜けてたし」

「嘘!!」

「や、本当。つぅか、瑞希誰に恋してんだよ、また兄貴の事言ってんの?」

「!!」


にっと口の端をあげた樹が意地悪な笑みを浮かべる。

ダダ漏れだったらしい心の声に、「樹」っていう固有名詞が出てきてなかった事を何度も頭の中で確認してから、あたしは口を開く。


「誰にも。ってゆうか……恋とかじゃないし。ってゆうか恋とか言わないでよ。恥ずかしい」

「じゃあなんて言うんだよ。相手に触りたいって思ったり、一緒にいて安心できたり……それは相手が好きだからだろ? 恋だろぉが」



  

……―――― 恋?



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