世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
恋って――――……
黙ったまま何も言えずにいたあたしに、樹が不思議そうに首を傾げる。
「なに、おまえ……もしかしてマジで兄貴意外誰も好きになった事ねぇの?」
「……ないでしょ」
「は? マジで? おまえ高校生……」
「そんな訳ないでしょ!! バカ樹!!」
「は? あ、おい!」
あたしは走りこんだ寝室のドアを思い切り閉めて、そのままドアを背中にその場にペタンと座り込む。
「反抗期かよ」なんていう樹の声がドアの向こうから聞こえてきて……そのままあたしの頭を抜けていった。
だって……
だって――――……
樹の微笑みに、思わず顔を逸らしたりだとか
樹との会話が、ずっと続けばいいと思うくらいに楽しかったりとか
樹のお風呂上りの匂いに少しだけ緊張したりだとか
樹の低い声に呼ばれる名前がくすぐったかったりだとか……
それ全部、樹が好き、だから……?
……ありえない。
ありえないっ!
だってあたしはお兄ちゃんがっ……
……お兄ちゃんが好きなんだもん。
確かに、樹と会ってからお兄ちゃんへの想いは落ち着きつつある。
おめでとうって言ってあげようって気持ちになるつつある。
だけど、それはあたしの努力の結果であって、樹がどうとかそんなんじゃ……
確かに……
確かに、お兄ちゃんへの膨れた想いは、言葉で吐き出した事で綺麗な大きさに戻った。
意地とかそんな汚いどうしょうもない感情が削ぎ落ちて、素直な大きさに戻っていて……
あたしの心には、空っぽな場所ができた。
それなのに寂しく感じなかったり、悲しくならなかったりしているのは……
その場所に、入り込んでいるのは――――……
あたしの気持ちに、いつの間にか居座っているのは――――……
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