世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】

恋って――――……



黙ったまま何も言えずにいたあたしに、樹が不思議そうに首を傾げる。


「なに、おまえ……もしかしてマジで兄貴意外誰も好きになった事ねぇの?」

「……ないでしょ」

「は? マジで? おまえ高校生……」

「そんな訳ないでしょ!! バカ樹!!」

「は? あ、おい!」


あたしは走りこんだ寝室のドアを思い切り閉めて、そのままドアを背中にその場にペタンと座り込む。


「反抗期かよ」なんていう樹の声がドアの向こうから聞こえてきて……そのままあたしの頭を抜けていった。


だって……

だって――――……


樹の微笑みに、思わず顔を逸らしたりだとか

樹との会話が、ずっと続けばいいと思うくらいに楽しかったりとか

樹のお風呂上りの匂いに少しだけ緊張したりだとか

樹の低い声に呼ばれる名前がくすぐったかったりだとか……


それ全部、樹が好き、だから……?


……ありえない。

ありえないっ!


だってあたしはお兄ちゃんがっ……

……お兄ちゃんが好きなんだもん。


確かに、樹と会ってからお兄ちゃんへの想いは落ち着きつつある。

おめでとうって言ってあげようって気持ちになるつつある。

だけど、それはあたしの努力の結果であって、樹がどうとかそんなんじゃ……


確かに……

確かに、お兄ちゃんへの膨れた想いは、言葉で吐き出した事で綺麗な大きさに戻った。

意地とかそんな汚いどうしょうもない感情が削ぎ落ちて、素直な大きさに戻っていて……

あたしの心には、空っぽな場所ができた。


それなのに寂しく感じなかったり、悲しくならなかったりしているのは……

その場所に、入り込んでいるのは――――……


あたしの気持ちに、いつの間にか居座っているのは――――……


.
< 39 / 68 >

この作品をシェア

pagetop