世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】


だって……だって、最悪だよ?

車のうんちく語らせたら煩いし、ビールなんか飲んでうまいって言うし……

陸上から逃げ出したくせに未練たらたらだし。

あと、靴とか揃えないで脱ぐと怒るし、本当に面倒くさいし!


……―――― でも。

でも、本当はすごく優しくて暖かい。



樹に触れただけで、あたしの全部が満たされる。

もっと触れたいって……思う。


それは……紛れもない事実、だ。


なんで……

なんでこんな急に……



『おい、瑞希』


急に聞こえてきた声に、あたしは身体をすくませる。


「な、なに?!」

『出てこいよ。バカにしたのは悪かったって。

……まさかおまえが初恋もまだだなんて知らなかっ』


……――――バン!!


「初恋くらい経験済みだもん!

10歳の時、隣の席の高田くんが好きだったもん!!

……お兄ちゃんとの事は無理だって分かってたから、あたしだってそれなりに……」


ドアを開けて食ってかかるあたしに、樹がにっと笑う。

そして……


「出掛けるぞ」

「え、どこに?」

「天気がいいのに部屋に閉じこもりっきりなんてよくないだろ」


……どこに行くのかを聞いたのに、返って来た返事にその答えは入っていなかった。

だけど、そこを突っ込めなかったのは……樹に握られた手のせい。


引っ張られる手を変に意識しすぎてしまって、歩き方すら忘れてしまう。

そして起こる当たり前の事故。


「きゃあっ!!」


部屋から玄関に繋がる廊下の段差につまづいて転んでしまった。

こんな段差で転ぶなんて……


「痛い……」

「こんな段差で転ぶなよなぁ……まるでおばあちゃ」

「樹が無理矢理引っ張るからでしょ! もぉ……脚痛いしやだ」


浮かんできた恥ずかしさから不貞腐れると、樹はそんなあたしに困り顔で笑って……手を差し出した。




.
< 40 / 68 >

この作品をシェア

pagetop