世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
だって……だって、最悪だよ?
車のうんちく語らせたら煩いし、ビールなんか飲んでうまいって言うし……
陸上から逃げ出したくせに未練たらたらだし。
あと、靴とか揃えないで脱ぐと怒るし、本当に面倒くさいし!
……―――― でも。
でも、本当はすごく優しくて暖かい。
樹に触れただけで、あたしの全部が満たされる。
もっと触れたいって……思う。
それは……紛れもない事実、だ。
なんで……
なんでこんな急に……
『おい、瑞希』
急に聞こえてきた声に、あたしは身体をすくませる。
「な、なに?!」
『出てこいよ。バカにしたのは悪かったって。
……まさかおまえが初恋もまだだなんて知らなかっ』
……――――バン!!
「初恋くらい経験済みだもん!
10歳の時、隣の席の高田くんが好きだったもん!!
……お兄ちゃんとの事は無理だって分かってたから、あたしだってそれなりに……」
ドアを開けて食ってかかるあたしに、樹がにっと笑う。
そして……
「出掛けるぞ」
「え、どこに?」
「天気がいいのに部屋に閉じこもりっきりなんてよくないだろ」
……どこに行くのかを聞いたのに、返って来た返事にその答えは入っていなかった。
だけど、そこを突っ込めなかったのは……樹に握られた手のせい。
引っ張られる手を変に意識しすぎてしまって、歩き方すら忘れてしまう。
そして起こる当たり前の事故。
「きゃあっ!!」
部屋から玄関に繋がる廊下の段差につまづいて転んでしまった。
こんな段差で転ぶなんて……
「痛い……」
「こんな段差で転ぶなよなぁ……まるでおばあちゃ」
「樹が無理矢理引っ張るからでしょ! もぉ……脚痛いしやだ」
浮かんできた恥ずかしさから不貞腐れると、樹はそんなあたしに困り顔で笑って……手を差し出した。
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