世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】



「そりゃあすみませんでした。どうぞ、お嬢様」

「……気持ち悪い」

「お嬢様っつぅか女王様だな。威張りたい放題」


挑発するように笑う樹の手を、少し躊躇しながら取る。

……躊躇っていうか、緊張ってゆうか……なんだか分からない感情。


そのままあたしを立たせてくれた樹が、玄関を開ける。

じょじょに開いていくドアの隙間から降り注いできた太陽の日差しが眩しい。


前を歩く樹の背中が見えないくらいに……

キラキラと光る樹の長めの髪、寒そうに竦める肩、男の割りには華奢に見える背中……



眩しいのは太陽のはずなのに。

あたしは樹の背中が見られなかった。


キラキラしてて、心臓が勝手に騒ぎ出すから。


 ※※※


「たまにはこうやってぶらぶらするのもいいもんだな」

「まぁ、悪くはないけど……あ、せっかく駅近いしマグカップを」

「先に言っておくけど、キャラクターもんは使う気はねぇ」

「……あっそ」


駅から少し外れたオフィス街。

歩いている人はスーツに身を包んだ人から、カップルまで様々だった。


歩道の脇を彩るはずの木々はもう枯れていて、その役割を果たしてはいない。

それでも、そんな歩道を歩いていると気分が落ち着くのはよく言うマイナスイオンとかそうゆうものの効果なのかな。


恥ずかしくなって、玄関を出てすぐに離してしまった手を少し後悔しながら、樹の半歩後ろを歩く。

ビルの間を抜けてくる風が、樹の髪を揺らすのを眺めていると……不意に声を掛けられた。


「ちょっとお時間いいですか??」


目を向けると、そこにはパンツスーツに身を包んだ女の人。


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