世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
「アンケートに答えてもらえたら、そこのカフェの割引券差し上げてるんですけど……お時間大丈夫ですか?」
「まぁ……アンケートって?」
樹の問いに、その女の人はにっこりと笑う。
「恋愛に対しての質問ですよ。雑誌で特集組むんですが、ちょっとご意見を伺いたくて」
「どうする?」
「いいよ、別に。どうせぶらぶらしてただけだし」
樹とぽつぽつ言葉を交わしてそのアンケート用紙を受け取る。
そして近くにあったベンチに座り、その質問項目を眺めた。
『Q。01 忘れない恋をした事がありますか?』
『Q。02 01でYESと答えた方にお聞きします。それはいつ頃のどんな恋でしたか?』
『Q。03 つい今の恋人と昔の恋人を比べてしまう事がある』
「……これさ、もしあたし達がカップルだったら絶対ケンカになるよね」
「瑞希案外嫉妬深いんだな」
「なにそれ。……まぁ、やきもち妬きかもしれないけど。樹はどうなの?」
「……オレは、忘れられない恋とかYESで答えられたらその脚で家に帰って軽く事情聴取だな」
「……」
一瞬呆気に取られたあたしだったけど、樹の不貞腐れたような表情に一気に笑いが込み上げてきて……静かなオフィス街にあたしの笑い声がこだました。
「忘れられない恋とか……樹はさ、そうゆうのってあったりする? 本気で恋愛した事ないって言ってたけど……」
アンケートの報酬としてもらった割引券に誘導されるまま入ったカフェ。
カップルが多いのは、あのアンケートのせいだろうか。
あたしが柄にもなく少し戸惑いながら口にした言葉に、樹は頬杖をつきながら答える。
「質問がおかしかったよな。『忘れられない恋をした事がありますか』って、忘れられなかったら現在進行形のはずだろ」
「あぁ、まぁ……」
「オレは忘れられないくらいだったら思い出にしない。そんなに好きなら諦めないし」
「で、した事あるの?」
.