世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
樹と過ごした3日間は嘘のように姿を消して。
代わりに日常があたしを迎え入れた。
朝起きて学校に行く。
来月には朝起きても憎まれ口を叩くお兄ちゃんがいなくなると思うと寂しかったけど……
あたしの心はそれよりも、他の人を求めていて……
その人を想って寂しさで溢れていた。
……単純すぎるほど素直なあたしの心。
減らず口のカモフラージュも、自分の気持ち相手じゃどうにもならない。
隠しようがない。
たった3日間しか一緒にいなかったのに、こんなにもあたしの気持ちは樹でいっぱいで……
どうかしてる。
きっとあの雨に打たれたせいで、あたしは壊れたんだ。
そうに違いない。
お兄ちゃんでいっぱいだったはずなのに、今は……
そのお兄ちゃんよりも、樹の事で頭も胸もいっぱいだなんて。
きっと、あの雨の日。
樹に初めて会ったあの日に、あたしは……壊れたんだ。
「瑞希チャン、それは『恋に堕ちた』って言うのよ」
机にべったりと溶け出しそうになっていたあたしを、友達の芽衣がからかう。
3月の教室は、終業式が近いからかなんだかだらけていて……この空気にも溶けそう。
自習が増えた教室は荒れたい放題。
2年になれば担任も代わるからか、あまり先生達も気に留めていないようだった。
「……恋とか言わないでよ。恥ずかしいな」
ぽつりと口にしたのは、いつか樹と交わした言葉。
あれから……もう3週間が経とうとしていた。
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