世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】
「恋が恥ずかしいってどんだけ純情だよ」
「純情だもーん」
「嘘ばっか~。この1年で3人は男代えてたじゃん」
「……誰も好きじゃなかったけどね」
そう。付き合った誰も好きじゃなかった。
お兄ちゃんへのあてつけみたいに適当な男と遊んで心配させて。
誰かと付き合いたいって言うよりも、お兄ちゃんに心配されたかったって思いが強かった。
だから……誰とでも平気で付き合えた。
でも今は……
「ねぇ、芽衣はさ、忘れられない恋ってした事ある?」
「なにそれ。忘れられない恋?」
「そう。思い出にできない恋」
樹と離れて3週間も経つのに、あたしの頭の中では樹と過ごした時間が流れ続けている。
交わした会話。
部屋の匂い。
見上げる横顔。
眩しい月明かり。
居心地のいい隣……
夜、ベッドで目を瞑ると、未だに樹の寝息が聞こえてくる。
忘れないようにってインプットした頭や心はまだ樹を鮮明に記憶していて……目を瞑る度に、背中に樹が寝ているような……そんな気分になって切なさが襲う。
減らず口も
低い声で呼ばれる名前も
大きな手も
わざと隠した優しさも
あたし全部が記憶していて……胸の奥にしまいこんでいて、捨てようとしない。
……捨てられない。
「忘れられない恋かぁ……」
あたしの前の机で足を組んだ芽衣がうーんと唸る。
「忘れられないっていうよりさ、それって忘れたくないから思い出に出来ないんじゃないの?」
「忘れたくないって?」
聞き返したあたしに、芽衣はまた少し悩んで……うん。と一度頷いてから話し出した。
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