世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】



その声に振り返ると、男がじっと真剣な表情であたしを見つめていて……一瞬だけドキっとしたけど、その金額に眉をしかめた。

だって2万って。


「2万? ……安すぎ。じゃなくて、あたしそうゆうのやんないんだってば」

「誤解すんな。おまえには指一本触れねぇよ。ただ、人と会って口げんかに勝ってもらいたいだけ」

「口げんか?」

「そ。おまえの減らず口を見込んで。それだけで2万。悪い話じゃねぇだろ?」


通行人の視線が今までよりも熱くなったのは、きっとこんな雨の中傘もささないでいるからだと思う。

でも、それはあたしだけじゃなくて、隣の男も一緒。

……ってゆうかなんでこの人も傘ささないんだろう。


「この辺のホテルなら1泊8千円くらいだろ。2万あれば余裕で泊まれるし」

「……」


まぁ、悪くはない話かもしれない。

ちょっと口げんかすれば2万……でも、勝てるかな。

大体、そんな事言いながらどっか連れ込まれてエッチな事されたらどうしよう。

……そんな悪い人には見えないけど、男って見た目によらないってよくお兄ちゃんが……

浮かんできたお兄ちゃんの顔に、あたしはきゅっと唇を結ぶ。


多少の不安はあったものの、ますます強くなった雨と、止まる事なくどんどん進んでいく時間があたしの背中を押した。

……お兄ちゃんへのあてつけもあったのかもしれない。


「いいよ」


あたしの答えに、男はふっと微笑んだ。

こげ茶色の髪を伝う滴が、長めの前髪からぽたりと下に落ちる。


クールそうな男の浮かべた優しそうでいて切ない微笑みに、雨がよく似合っていた。


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