世界で一番欲しいもの【LOVEドロップス企画作品】


「ちげぇし」

「じゃあストーカーさん?」

「違う」

「じゃあアレだ。新聞の勧誘が断れないからあたしの饒舌を見込んで……」

「ちげぇよ!……ったく、おまえは……本当に煩い奴だな」


言葉では文句を言いながらも、その表情からは穏やかな微笑みが見て取れた。

小さく笑っている樹を見ると、思ったよりクールではないらしい。

そういえば会った時も笑ってたし。……笑い上戸?


「ちょっと、遊んだらなんかもう彼女になった気分でいるみたいでさ。本当に女心ってわかんねぇよ」

「遊んだって……どこまで?」

「どこまでもなにもねぇよ。遊んだだけ。ちょっとぶらぶら歩いただけだって」

「あっやしー。まぁ、いいよ。その女が来たら彼女面して追い払えばいい訳ね」


ようやく分かった依頼内容に、あたしは少しほっとしながらソファに座り直す。

だって、いくら顔がタイプだからって会ったばかりの人とそうゆう事するのって……さすがに抵抗があるんだ。

そうゆう事してる友達もいるけど……あたしは、やっぱり交際期間を経てそうゆう関係に……って古臭いってまた友達に言われそうだけど。


ソファに座りながらもう一度部屋を見回すと、棚に無造作に置いてあるトロフィーとメダルが目に映った。

さっきまでいた位置からでは確認できなかったトロフィーに、あたしは驚いてソファーの背もたれに乗り上げる。


「なにあれ!!」


いきなり大きな声を上げたあたしに、樹は鬱陶しそうな視線を向けて……そしてトロフィーに視線を移して、小さな声で「あぁ」と漏らした。


「トロフィーだよ。見た事ねぇの?」

「そんなん見れば分かるよ!何のトロフィーか聞いてんの!」

「さぁ。なんだったっけなぁ……きっとつまんねぇモンのトロフィーだよ」


一向に教えてくれなそうな樹に、あたしは口を尖らせてトロフィーの置いてある棚に近付く。

そして手に取って見てみると……


「第54回全国高等部陸上大会準優勝……え、樹、陸上やってんの?」

「昔な。もう過去だけど」

「ってうか準優勝ってすごくない? 全国2位って事でしょ?」



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