《クールな彼は欲しがり屋》
本日は暗雲が垂れ込めるでしょう
汐留駅から程近く浜離宮を見おろす位置にある23階建てのオフィスビル。

私は、そのビルの20 階にある広告代理店に勤めている。この日、総務部から希望していた営業部に異動することになっていた。

「おはようございます。本日付けで総務部から異動してきました春川 慶子です。あの、沢田課長は、どちらにいらっしゃいますか?」

営業部に入ってすぐ、近いデスクにいた人へ声をかけた。

「おはようございます。あちらの窓に近い一番奥の席にいますよ」
にこやかな笑顔で返事をもらい、少しホッとした。
異動初日でかなり緊張していたから。

お礼を言って沢田課長かいると思われる窓際まで足を進めた。

沢田課長のデスクの前に、男性社員が立っており何か会話している。男性社員に隠れたようになって、ここからだと沢田課長の顔はまだ見えない。

話の邪魔になってはいけないと思い、少し離れた位置で会話が途切れる機会を窺っていた。

少しして男性社員が「わかりました。もう少しつめてクライアントに話を聞いてきます」と言いデスクを離れた。

ようやく話せると思って近づいた私は、声をかけようと沢田課長の方向を見てハッと息を飲んだ。

まさか!!

こんなことって、現実にあるの?

あまりにも信じられない状況に驚いて言葉が出て来ない。
そうこうしているうちに今度は課長のデスクにある電話が鳴り始める。

受話器をあげ、話をし出した沢田課長だと思われる男性。

斜めバンクの前髪、キリッとした瞳に通った鼻筋。
今流行りのイケメンな塩顔。


何かの資料を広げながら電話をしていた沢田課長とおぼしき人物が、ふと顔をあげこちらを見た。

じっとりと脇汗が滲むような気がした。

目が会った。
特に表情を変えずに、じっと目を逸らさずに電話を続けている。いたたまれなくなり、私から先に目を逸らした。

それから、少しずつだが、沢田課長の眉間には皺が刻まれていき、受話器を置く頃には、皺がかなり深くなっていた。

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