《クールな彼は欲しがり屋》
「ひどい言い方ですね。私の方が不幸だと笑いたいんですか?」
「人の不幸は時に人に元気を与える」
「なんですか、ことわざみたいに綺麗に言ってみせた所で、あなたがひどいことを言ってるのは変わりませんよ。他人の不幸を喜んでるなんて」
「喜んでる訳じゃない。同じだなって言う....言うなれば同志の気分だ。そうだ、気が変わった。あんたの話は散々聞いたんだから、次は俺の話を聞いてくれよ」
男は、少し口角をあげてみせた。
「貴方の話ですか?」
「そう、俺の失恋話」
確かに他人の不幸話を聞いて、同情しながらも自分が救われる時がある。私だけじゃないんだ。そう思えて救われる。
こんなイケメンの不幸話。
すごく興味をそそられる。しかも、イケメンなのに失恋。
「いいですよ。聞いてみても」
そんな風に偉そうに言ったことも無論忘れてはいない。確かにイケメン隊員のいう通り、人の不幸は時に人に元気を与える。
それから、何杯かワインを飲み男と失恋話と沢山のくだらない話をした。
話をしているうちにテーブルに置かれた男の長い指がやけに魅力的に見えてきた。
男がグラスにつける形のいい唇に目が奪われた。
男が私を見る優しげなブラウンの瞳に心も奪われた。
そう、私はあの夜の男に完全に堕ちていた。
ついさっきまでは、あの夜の出来事を後悔していなかった。でも、今は違う。
状況が180度変わったのだ。
参った。
完全に降参だ。
やっぱり、慣れないことはするんじゃなかった。馬鹿な真似をした罰だ。
罰なら十分受けたと思ってきた。この世はなんて恐ろしいんだろう。
ついてない私の未来は、自らしでかした馬鹿げた行動により、お先真っ暗だと確定してしまった。
少しはましな未来を期待した私が馬鹿だ。
ついてない女は、未来もついてないに決まってるのだ。いくらかましになるなんて考えをした私が甘かった。
私は、がっくり肩を落として立ち上がり、営業の社員に混じって食べ終えた食器を返却場所に戻しに行った。