《クールな彼は欲しがり屋》
健太郎の顔にタルトを当てるなんて、私って最悪。
キッチンからタオルを健太郎のところへ持っていくと、
「慶子、皿を持ってきてくれ」と言われた。
「皿?」
「俺の両手に乗ってるケーキを乗せたいから」
健太郎の両手をみると、タルトが裏返しになって乗っていた。タルトを乗せていたお皿は、私が放りなげた為、床に落ちてしまったのだ。
「あ!そうだよね、ごめんっ、今持ってくるね」
再びキッチンへ戻り平たい皿を健太郎の前に走って持っていった。
「サンキュー」タルトの生地やカスタードクリームがついた顔でも、健太郎は怒るでもない。それどころか私にお礼を言って、お皿にタルトをそれ以上崩れないよう配慮しているのか優しくそっと裏返しのまま乗せる。
胸が痛む。
健太郎、ごめんなさい。
こんなドジな彼女なんか、やっぱりいらないよね?
うるうるとなりかける瞳。
素敵なイブにするつもりが、最悪のイブになっちゃった。
素直に健太郎が予約してくれたホテルに行ってれば、きっと素敵で最高なイブが過ごせたはずだ。
それなのに私ってば、素敵な演出なんて出来るはずないのに。自分のしたことに後悔していた。
我慢すればするほど、ぐしゃっとなったタルトを見て、より切なくなってきていた。