《クールな彼は欲しがり屋》
ソファーに並んで座り濡れタオルで顔を拭いている健太郎を見つめた。
「ごめんなさい」と謝ってこぼれ落ちそうになる涙を慌てて指で拭う。

ドジすぎる自分に腹がたった。
まともなサプライズも出来ないくせに無理をして素敵なイブを迎えるどころか健太郎に嫌な思いをさせてしまった。

「……慶子」
ぐっと二の腕を引かれて、私は健太郎の腕の中にいた。
びっくりして健太郎の腕の中から見あげると、そこには優しく微笑む健太郎の顔があり、私を見つめていた。

「健…太郎?」

「ありがとう」

「え?」

「俺の為にわざわざ準備してくれたんだろ?」
健太郎は、顔を上げて部屋の中に視線を巡らせた。

「でも、うまくいかなかつたね、ごめん」
睫毛をふせて、私は健太郎の喉仏を見つめた。

「そんなことない。嬉しい」
その言葉に恐る恐る健太郎の顔を見上げた。

すごく柔らかな笑顔。

こんなにドジな女を、こんなふうに優しく見つめてくれるの?健太郎。

イブを台無しにした女を怒らないの?

「こんなふうに沢山飾り付けてくれて、サプライズ的にクリスマスを祝おうとしてくれた女は今まで一人もいなかった。慶子が初めて」

鼻水が出てきて、鼻をすする。優しくされて涙が出てきた。

「慶子は、俺が長い間求めてた女だよ。間違いない」

「本当に?」

「今日まで待ってて良かった」

「健太郎」


「ありがとう、慶子」

「なんにもしてないよ、タルトはぶちまけたし」

「そうだな。漫画みたいに顔に食べ物をぶつけられたのも初めてだ」
健太郎は、くくっとこらえきれないように笑いだしていた。



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