《クールな彼は欲しがり屋》
「笑わないでよ……」

「ドジ」

「わかってるから、もうそれ以上言わないで」

「もう、言えない」

そう呟くように言って、健太郎は私の唇を塞いだ。


目を閉じて、健太郎とキスをした。

どんなふうに唇を動かすとか顔の角度がとうのこうのと考える余裕がなかった。

身体や頭を支えてくれる健太郎。

キスをしたままソファーに横に倒されていき、
「慶子、もう待てない」とキスでぼぉっとなった頭の中に健太郎の声が聞こえていた。

健太郎が近づくと甘い匂いがした。

昨日、部屋に充満していた匂いと同じだ。
タルトの甘い香り。

どこでどんなふうに服を脱いだのかもわからない。
気づいたら私は使い慣れたベッドの上にいた。

視線の先には、筋肉質な肩、そして胸板、健太郎の顔が見える。

涙がつうっと私のこめかみをつたい、流れて後頭部に落ちる。

動きを止めて私の表情を見ながら、少し辛そうな表情をしている健太郎。

「大丈夫か?」

「う…ん、大丈夫」
実際は大丈夫じゃ無かった。
ついにやってきた痛みに顔が歪み、奥歯を噛みしめる。想像以上の異物感を自分の中に感じていた。

また溢れ出した涙が後頭部へと流れていく。

「大丈夫?慶子」
再び動きを止めた健太郎を見上げ、こくりと頷いて見せた。

健太郎の優しさがあつい熱を帯びて、言葉から行動から身体から私にまっすぐ伝わってくる。

知らなかったこと、初めてのこと、恥ずかしい思い。

それらの全てが今ここに集結していた。





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